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IoT導入事例

株式会社アプレ

“匠”の経験とカンを解明してIT化 だれもが使える水耕栽培システムへの挑戦

取材日:2018年8月

北海道の農業ベンチャーである株式会社アプレは、“匠の技”をシステム化する試みを進めている。気象予測や野菜の生育状況可視化など、IBM WatsonおよびIoTの最新技術をIBM Cloud上で活用しながら「だれもが使える」ものにする取り組みだ。NTTドコモの協創パートナーに選定され、システム開発をNI+Cが担当。ゆくゆくは、プラントとシステムを一体として、全世界に販売するという目標に向けて歩みを進めている。

だれもがおいしく安全な野菜を食べられる世の中に

水耕栽培が再び脚光を浴びている。かつて何度も注目されたが、そのたびに出てきた課題をクリアできず、現在は第6次ブーム。オランダが先進国として知られ、すでに商業ベースに乗っているシステムもある。国内でも産学を問わず数多くの実験が行われ、農業ベンチャーなどが取り組んでいる分野だ。その中で、北海道・大沼に本社プラントを構えるアプレは強烈な個性を放っている。

何より、同社の技術が謎に包まれている。専務取締役 山根 基広氏が25年間、ほぼ1人で研究してきた技術に依拠し、さまざまな植物を同一ラインで生産する“雑木林型”を取る。根に適度な負荷を与えるために養液で水流を作る。そして、養液を一切捨てず循環させる。これらは、研究の結果

生み出された経験則で、「なぜ」なのかは科学的に不確かなのだ。

たとえば、「雑木林型であれば連作障害が起こらない」ことや、「連作障害は土(液)中栄養分の偏りによって起こる」ことも、現在のところ有力な仮説の1つにすぎない。それでも、アプレのプラントでは数十種類の野菜が生き生きと育っている。収穫後の日持ちは良く、ナスは目隠しして味わえばリンゴと勘違いする人が居るほど。成分分析を行えば、栄養バランスは良い。採算ラインに乗らないため現在は手がけていないが、根菜類も育つことが確認されている。

生産量もケタ違いだ。プラント立ち上げ直後の2016年に33トンを収穫。翌17年に55トンと増やし、18年は70トンになる見込み。3年以内に100トンを目指している。プラントは930坪で、耕作面積は524坪。ライン面積は立ち上げ以来一定だ。一般の土壌でほうれん草を育てると、300坪あたり1.4トンが平均という。比較するまでもなく、とてつもない実績になる。

同社 代表取締役 髙橋 廣介氏は、「だれもがおいしく安全な野菜を食べられる世の中にしたいのです」と話す。「手塩にかけて有機栽培で野菜を育てても、少量しか取れなければ高額で売るしかなくなります。そうなると、お金持ちしか食べられません。だから私たちは、“プラント”と“匠の技”をシステムとして販売し、世界中に広げたいと考えています。プラントだけを展開しても、そこに山根専務が居なければ野菜は作れませんから」。

「+d」パートナーに選定

髙橋氏がそんな思いを抱えていたところに出会ったのがNTTドコモだった。NTTドコモは「付加価値協創企業」への転換を図り、「+d」と呼ばれるパートナー制度を推進している。パートナーとの協創により、地方創生や社会的課題の解決を目指すこの取り組みは全社的なもの。あらゆる部署が協創の種を探してきて、パートナーと一体になってビジネスをブラッシュアップし、共通の目標に向かって進んでいく。

NTTドコモは、アプレに大きな可能性を感じた。そこで、“匠の技”の部分を“システム”へと落とし込めるかどうかを探った。アプレの抱えていた課題を洗い出した上で1週間にわたって山根氏に張り付き、実現可能なものから手をつけていく方向でプロジェクトを開始。システム化部分の担当として、NI+Cが指名された。システム化にはAI技術が必須で、NTTグループのcorevoとIBMのWatsonをどちらも深く理解する優れたエンジニアを抱えていることがその理由だった。

プロジェクトは、PoC(Proof Of Concept:概念実証)として段階的に進められた。数多くの課題の中から、アプレおよびNTTドコモが実施する内容を検討。実施が決まれば、NI+Cが設計・開発を行うという流れだ。PoCフェーズ1では、センサーデータとThe Weather Companyの天気予報情報に基づき、Slackへ作業指示を通知する仕組みをすべてIBM Cloud上に構築し検証した。


匠の言葉をAIに教える

この仕組みは、窓の開閉にかかわる重要なものだ。山根氏は、「日の出と同時に出社し、夜は日が暮れるまで残ります。窓は、夜に必ず閉めますが、正しい気象予測ができれば日が暮れるまで残らなくて良くなります」と話す。

気象予測機能は、すでにメリットが出ている。ナレッジ・マネジメント部 部長 髙森 満氏は、「NI+CさんがThe Weather Companyを使おうと提案してくれて助かりました。気象庁のデータではメッシュが粗すぎますが、The Weather Companyのものは500m四方と細かいメッシュでプラントの天気をピンポイントに提供してくれます」と話している。

プロジェクトでは、山根氏の作業指示をボイスレコーダーで録音し、それを文字に起こしてWatson Machine Learningに教えることにも取り組んだ。これが、The Weather Companyが提供する現在の天気を気象予測へとつなげる役割を果たす。山根氏は、「まだ経験が勝る部分もあります」とはいうものの、「仕事は楽になりました」と語る。安心して早めに退社できるようになったことに加え、予報がSlackに通知されるため、休憩時間や出社前に気象予測情報を確認できるようになった。

農業は四季を通してやるもの

PoCフェーズ2では、主にWatson Visual Recognitionを使った画像解析に取り組んだ。スマートフォンを生産設備に設置し、1時間おきに写真を撮って成長率を判断する。予定と合っているかどうかをビジュアルで判別し、作業者に通知できる仕組みだ。

2018年6月、PoCはフェーズ3へと向かっている。現在は、要件を洗い出している最中で、システム面だけでなく、データ取得も工夫する計画だ。

たとえば、温度と光量のデータを取得したり、育てている野菜の温度を見るためにサーモグラフィを使ったりするなどの案もある。しかし、それらが実用に耐えられるようになるためには、さらなるデータの蓄積が必要になる。

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