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 アスクル株式会社

アスクルが日本最大級のB2B ECサイトをモダナイズ、 大規模プロジェクト成功のポイントは?

取材日:2023年

アスクルが日本最大級のB2B ECサイトをモダナイズ、
大規模プロジェクト成功のポイントは?

B2B最強ECサイト構築「Trylion Project」の舞台裏

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通販サイトを展開するアスクルが「B2B 最強 EC サイト」の構築を目指したプロジェクトを進行中だ。

このプロジェクトではマイクロサービスやクラウドネイティブ技術を採用しているという。アスクルの担当者に話を聞いた。

  • 当ページの内容は、アイティメディア株式会社の許諾を得て、アイティメディア制作記事を転載しております。

文具・事務用品、日用品、現場用品、医療/介護用品の事業所向け通販サイトを展開するアスクルが「B2B(Business to Business)最強 EC サイト」の構築を目指し、マイクロサービスやクラウドネイティブ技術を最大限に活用した大規模プロジェクトを推進中だ。

2023 年 6 月に本プロジェクトの第一フェーズとして Web サイトがリリースされ、多くのユーザーがこの大規模プロジェクトが生んだ成果
を目の当たりにすることになった。

社内で「Trylion(トライオン)」と呼ばれるこのプロジェクトは、中小事業所向けの EC サイト「ASKUL」と、中堅/大企業向けのクローズドな一括購買サイト「SOLOEL ARENA(ソロエルアリーナ)」という顧客、特性、機能が異なる 2 つのサイトを 1 つに統合するものだ。統合による新サイト構築は2022 ~ 2025年の中期事業計画における4つの重要戦略の一つに位置付けられており、Trylion という造語には売上高 1 兆円(Trillion)に挑戦(Try)していくという強い意志が込められている。過去の課題を解決し、将来への飛躍を目指すプロジェクトだ。

この大規模プロジェクトではマイクロサービスやクラウドネイティブ技術を採用し、急速に変化するビジネス環境に対応できるようになったという。アスクルの担当者に詳しい話を聞いた。

「B2B最強ECサイト」を目指して採用した
マイクロサービスやクラウドネイティブ技術

マイクロサービスやクラウドネイティブ技術を採用した背景について、アスクルの山口裕二氏(テクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ 2 フルフィルメント マネージャー)は、次のように説明する。

「2 つのサイトを長年運用する中で、機能や特性の違いによってユーザーの利便性を損ねてしまっている部分がありました。ASKUL サイトでは、ポイントやクーポンなど販促機能が充実し、誰でも商品情報や特集ページにアクセスできます。一方、ソロエルアリーナでは、購入金額に応じたボリュームディスカウントや購買管理機能など企業向け機能が充実し、クローズドな環境で購買業務の効率化が可能です。しかし、一方のサイトが進化すると、もう一方がその進化に追い付けないことが増えてきました。サイトの機能、サービスの良いところを統合しつつ、迅速に機能をリリースすることが求められたのです。そこでマイクロサービスやクラウドネイティブ技術を採用しました」(山口氏)

マイクロサービスやクラウドネイティブを採用する効果が特に期待されたのが周辺システムとの連携だ。周辺システムには、基幹系システム、新商品システム、商品参照基盤、顧客管理システムなどがあるが、中でもカギになったのがエージェント(代理店)支援システム「SYNCHRO AGENT」(以下、シンクロAG)だ。

「アスクルは創業当初から代理店と連携する独自のビジネスモデルを展開してきました。エージェントはアスクルにとって非常に大事なパートナーであり、シンクロ AG はそれを支える非常に重要なシステムです」(山口氏)

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プロジェクトのコンセプト(提供:アスクル)

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100人規模の 大規模プロジェクトで 重要な情報共有、
急なテレワーク対応でも活発に

シンクロ AG は、1200 社を超えるエージェント企業が日々行っている顧客発掘/集客、顧客管理/与信、注文状況確認、情報登録/検索、決済/入金管理などの業務を支援するシステムだ。Trylion プロジェクトは全体で約500 人を超える規模のエンジニアが関わっているが、シンクロ AG だけで 100 人規模になる。シンクロ AG の SI パートナーとして支援したのは日本情報通信だ。

プロジェクト期間は次の通り。2020 年 7月から検討、構想をスタートし、2021 年 10 月までに要件定義や設計を、2022 年 3 月で開発をそれぞれ終了させ、テストを経て一部エージェントにシステムをプレオープンしたのが2023 年 6 月だ。シンクロ AG のシステム開発をリードした山口氏は、プロジェクトのポイントとして、チームビルディングと情報共有の大切さを挙げる。

「メインシステムの開発も含めてマイクロサービスアーキテクチャの下、アジャイルに開発しています。プロセスの変更や組織間の調整が多いこうした開発体制では、情報共有とコミュニケーションが重要です。サービスや機能ごとにチームを編成し、ツールを使ってスムーズに連携させることを心掛けました。コロナ禍でオンラインでの作業となったのですが、むしろそのことが円滑なコミュニケーションにつながりました。毎朝 9 時に Web 会議(Zoom)で朝会を実施して課題を共有し、個別の課題を別の会議体で取り組むことを3年近く続けてきました。コミュニケーションはチャット(Slack)がベースで、情報共有ツール(Confluence)やタスク管理ツール(Backlog)の他、Web 会議の録画を情報共有や振り返りに使うなど、使えるものは使い倒しています」(山口氏)

もともとアスクルには Web 会議やチャットツールを活用する文化があったという。対面を重視しながら必要に応じてツールを使っていたが、コロナ禍で環境が激変すると、今度はツールをメインにし、必要に応じて対面でコミュニケーションを取る仕組みに切り替えた。

一方で、SI パートナーの対応にも助けられたという。ユーザー企業の文化や制度に SIパートナーが対応できず、開発の遅れにつながるケースは多いが、日本情報通信は、コミュニケーションやチームビルディングを含めたマイクロサービスの開発スタイルにすぐに適応した。日本情報通信の川戸中氏(エンタープライズ第二事業本部 第二プロジェクト部第一グループ グループ長)はこう話す。

「SI の中では比較的早くからマイクロサービス開発やテレワーク対応に取り組んできた自負もあります。先進的なアスクルさまを追い掛けるように、業務の知識やノウハウをインプットし、コミュニケーションを取っていきました」

ビジネスルールの変更度合いに応じて
アジャイルとウオーターフォールを並行したことで成功

プロジェクトでまず課題になったのは、ビジネスルールの変更をどう新しいシステムに実装するかだ。具体的には、顧客体系の変更と、ボリュームディスカウントなどの値引きの変更の 2 つがあった。

「顧客体系については、従来、顧客情報ファイルをシステム間でバケツリレーする方式でしたが、これを共通プラットフォーム化し、APIでアクセスする方式に変更しました。ここでマイクロサービスのメリットが生きます。また、値引きについては、ソロエルアリーナのボリュームディスカウントなどを新システムでどうエージェントに提供するかが課題でした。エージェントの方にも相談しながらルールを作り、データの持ち方も変更しました」(山口氏)

さらに難しい課題となったのが、アーキテクチャの変更だ。旧 ASKUL サイトのシステムは20年以上の稼働実績があるシステムだ。ビジネスルールもデータの持ち方も複雑化していた。

「画面数は約 500 画面でしたが、類似や重複も多く、古いものではドキュメントも散逸していました。そのため、業務内容の把握はもちろん、システムの解析、業務要件への落とし込み、システムへの実装といった、アーキテクチャの変更とクラウドネイティブアプリケーションへのモダナイゼーションを同時に行うという難しさがありました」(山口氏)

そこでポイントになったのが、アジャイルとウオーターフォールが混在したハイブリッドな開発スタイルだ。

「ビジネスルールの変更が新システムにどう影響を及ぼすのか、最初の段階ではよく分からず、工程もうまく切り分けられませんでした。そこで、ビジネスルールが大きく変わる機能と、あまり変わらない機能を分け、あまり変わらない機能は前倒しで設計、開発、テストをし、どんどんモダナイゼーションしました。一方で、ビジネスルールが大きく変わる機能については、スケジュールを定めて確定した部分から作り込んでいきました。こうした 2つの開発スタイルを並行して進めたことが、システム全体をうまくモダナイゼーションすることにつながったと思っています」(川戸氏)

山口氏も「システムのビジネスルールの変更が足を引っ張ってプロジェクトが遅延するリスクがある中、このスタイルを採用したことが成功のポイントだったと思います」と振り返る。

マイクロサービスという方針を貫き通したアスクルと それに応えた日本情報通信

マイクロサービスを採用した狙いは、サービスの進化を速めることにある。シンクロAGはオンプレミスから Amazon Web Services(AWS)上の IaaS 環境にクラウドリフトしたものだったが、ロジックは開発当初のものを引き継いで利用していた。新たなシンクロAGでは、AWS 上でコンテナや API、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)などのクラウドネイティブ技術を活用して、継続的にサービスをアップデートできる体制を築いている。

「これまではサービスは期間を決めて定期リリースしていましたが、今後は 1 日に何度もデプロイ、リリースできる仕組みです。小さく速くサービスを進化させることを目指し、AWSを活用することでさらなるコストの最適化も目指しています。インフラには『AWS Fargate』を、言語には『Kotlin』を採用し、全社が共通で使うことで開発スピードと開発効率を高めています」(山口氏)

新 EC サイトには、注文、集客/検索、顧客、購買、商品という 5 つのプラットフォームがあり、それぞれがマイクロサービスアーキテ
クチャを採用して構成されている。サービスごとに進化させることで、顧客ニーズや環境の変化に強い「最強 EC サイト」を提供できる仕組みだ。

一方で、バケツリレー式ではデータがフェーズごとに保持されるのでデータ活用が容易だったのに対し、新システムでは、データプラットフォーム上の API 連携でデータを取り扱うので、部門ごとに調整したり、フェーズごとにテストしたりすることが難しいといった課題もあった。

「データのやりとりは難しく、他のプロジェクトでは API ではなくファイルでやりとりしたものをインタフェースに取り入れたりすること
もあります。また、API 供給者と利用者の意思疎通、パフォーマンスが課題になることも多くあります。そんな中、今回のプロジェクトでは山口さまのリードの下、サービスの進化を最重要視し、API 連携とマイクロサービスという方針を貫き通しました。そのことがマイクロサービス採用の効果を高め、プロジェクトを成功に導くポイントでした」(川戸氏)

進化の速度の目安として、例えば、リリース頻度はテスト段階で 1日最大 50 回リリースしたこともあった。一方、山口氏は、日本情報通信がマイクロサービスやクラウドネイティブ技術での開発を支援してくれたことが、新しい開発カルチャーの醸成につながったと評価する。

「毎週、技術検討会があり、他のチームやベンダーを交えて新しい技術を活用する際の情報共有を進めています。日本情報通信さんはTrylion プロジェクト全体での新技術導入や開発文化の醸成にも大きく貢献してもらいました」(山口氏)

新しい ASKUL サイトによって、エージェントやユーザーは、サービスの進化を体験できるようになる。アスクルのマイクロサービスとクラウドネイティブの取り組みが真の効果を発揮するのはこれからだ。

「今後は、サポートや開拓などエージェントさんが営業活動をする上で、有益な情報をどんどん発信する仕組みを追加で開発できればと考えています。ビッグデータについても日本情報通信さんに開発していただいているので、そちらとも連携しながらシンクロ AG を進化させることで、エージェントさんへのサポート力を強化してまいります。それがお客さまのためになり、結果より多くのお客さまにご支持いただくことにつながると信じているからです。日本情報通信さんには今後も継続的にサポートしていただければと思います」(山口氏)

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アスクル株式会社

1993 年に事業所向け通販サービス「ASKUL」事業、2012 年には個人向け EC 「LOHACO」を開始。全国 10 拠点の自社 EC 物流センターから、全国に当日・翌日配送「明日来る」を実現しています。商品開発からラストワンマイルまで担うバリューチェーンにおいて、メーカーやパートナーとの共創を推進し、データとテクノロジーを最大活用してサイバー・フィジカル両面からのビジネストランスフォーメーションを進めています。当社のパーパス〈仕事場とくらしと地球の明日に「うれしい」を届け続ける。〉を実現する社会インフラであり続けることを目指しています。

本社:   東京都江東区豊洲 3-2-3 豊洲キュービックガーデン
創業:   1993 年 3 月
資本金:   21,189 百万円(2023 年 5 月 20 日現在)
従業員数: 3,574 名(連結 2023 年 5 月 20 日現在)
URL:   https://www.askul.co.jp/corp/

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日本情報通信株式会社
(略称:NI+C[エヌ・アイ・アンド・シー])

日本情報通信株式会社(NI+C)は、1985 年に日本電信電話株式会社(NTT)と日本アイ・ビー・エム株式会社(日本 IBM)の合弁会社として設立。システム開発から基盤構築、クラウド化への対応、社内外データ統合と AI による分析、EDI サービスやセキュリティ、ネットワークサービス、運用保守までをトータルに提供しています。「おもひを IT でカタチに」をスローガンに、様々な経験と最先端のテクノロジーでお客様の DX 推進を支援し、お客様の経営課題解決に貢献できる真のベストパートナーを目指しています。

本社:   東京都中央区明石町 8 番 1 号 聖路加タワー 15 階
設立:   1985 年 12 月 18 日
株主:   日本電信電話株式会社(65%)日本アイ・ビー・エム株式会社(35%)
資本金::  40 億円
従業員数: 1,286 名(2023 年 4 月 1 日現在 連結ベース)
URL:    https://www.niandc.co.jp/

●お問い合わせ

日本情報通信株式会社
【お問い合わせフォーム】https://www.niandc.co.jp/inquiry/
【メールアドレス】NIC_Contact@NIandC.co.jp

  • 記載の会社名、商品名、サービス名は各社の商標または登録商標です。
  • このページの内容は TechTarget ジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に 2023 年 7 月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。
    https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2307/28/news03.html

 

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