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 アスクル株式会社

困難だった大規模データ基盤の統合、アスクルがタッグを組んだ相手は

取材日:2023年

困難だった大規模データ基盤の統合、
アスクルがタッグを組んだ相手は

使いにくい従来型DWHから柔軟なデータ利活用へ

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アスクルはビッグデータを管理するため、ビジネス成長に合わせたデータ基盤の整備に取り組んできた。構築するまでにかかった時間は3
年以上だ。この大規模プロジェクトを推進できた秘訣(ひけつ)をアスクルの担当者に聞いた。

  • 当ページの内容は、アイティメディア株式会社の許諾を得て、アイティメディア制作記事を転載しております。

「仕事場とくらしと地球の明日(あす)に『うれしい』を届け続ける。」をパーパス(存在意義)に掲げ、中期経営計画で2025年までに「オフィス通販から全ての仕事場とくらしを支えるインフラ企業へのトランスフォーメーション」を目指すアスクル。創業以来、着実な成長を続けてきた同社の競争優位性の源泉の一つがB2Bのビッグデータだ。

こうしたビッグデータを管理するために、アスクルはビジネス成長に合わせたデータ基盤の整備に取り組んできた。2013年からオンプレミスでデータプラットフォームの運用をスタートさせ、2019年からは全社のビジネスデータを全て「Google Cloud」上に集約。オンプレミス環境で課題になり始めていたキャパシティー不足、スピード不足、データ鮮度の低下などの解消に取り組んだ。その上で2021年12月までに社内のデータ分析基盤を「BigQuery」に全面移行し、さまざまなデータ基盤を一元的に統合したビッグデータプラットフォーム「ASKUL EARTH」を構築するに至った。

この大規模プロジェクトを推進できた秘訣(ひけつ)をアスクルの担当者に聞いた。

アスクルのデータ基盤が抱えた課題を解決すべく大規模な統合へ

アスクルの児玉和寛氏(テクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ1 部長)は、ASKUL EARTHのワンプラットフォーム化の狙いと課題についてこう話す。

「抽出した分析データをデータウェアハウス(DWH)に蓄積し、売上分析や販売促進施策、コスト最適化などに役立ててきましたが、データ量や種類が増える中でビジネスニーズを満たせなくなっていました。ビジネス上非常に重要な物流データは7TBを超え、DWHに入り切らない状況です。また、ユーザーが増えて月次の締めに30~50人が同時にクエリを実行すると処理が追い付かない状態でした。さらに、倉庫データや商品情報、口コミなど、1日前のデータを確定させるのに2日かかることもありました。2日前のデータでは適切な販促施策もコスト最適化もできません。鮮度の問題でデータ分析が役に立たない状態でした」(児玉氏)

データ分析のために構築したシステムが、ビジネスの足かせになっていた上に、既存システムが限界を迎える中で、一部の処理をクラウドに流すことも増え、それがデータのバケツリレーやサイロ化、個別分析環境の乱立が起きていた。

アスクル様事例紹介の画像

 

ASKUL EARTHビフォー(提供:アスクル)

「これらの課題を解消するプロジェクトがASKUL EARTHのワンプラットフォーム化でした。大きく3つのフェーズで取り組みを進め、現在は3フェーズ目のデータ活用フェーズに入っています」(児玉氏)

活用フェーズに入ったことで、ASKUL EARTHはアスクルのビジネスに欠かせないデータ基盤として日々活用されている状況だ。

3つのフェーズでプロジェクトを推進、直面した課題を日本情報通信とともに解決

ASKUL EARTHプロジェクトは「クラウド移行(2019年2月~2020年8月)」「プラットフォーム集約(2020年7月~2021年12月)」「プラットフォーム進化(2022年1月~)」という3つのフェーズに分かれる。3年以上取り組んでいることからも分かるように、簡単なプロジェクトではなかったという。

「日々利用している複数のデータ基盤をクラウドに移行し、さらにそれらを集約して、ツールも含めて一元化する必要がありました。売上分析や販促施策などに取り組むユーザーの業務を止めることはできませんし、ツールを変えることで業務への影響を減らす必要がありました。また、データ基盤にはユーザーが独自で作成している領域も存在していましたが、ユーザーごとにどのように活用しているかは完全に把握できていなかったのです。最も大きな課題は利用している分析ツールがBigQueryに対応していなかったことです。分析スピードを上げ、1日前のデータを素早く分析することを目指していたにもかかわらず、ツールに対応するためにBigQueryとツールの間に中間DWHを新たに追加してプロセスを増やすといった矛盾した対応を取らざるを得ない状況でした」(児玉氏)

ユーザーへの影響、データ同期、分析ツール切り替えといった課題はフェーズ1のクラウド移行で直面したものだ。いずれもプロジェクトの成否を左右するものであり、根本的に解決する必要があった。そこで支援を依頼したのがパートナーの日本情報通信だ。日本情報通信の坂元仁樹氏(データ&アナリティクス事業本部 クラウドインテグレーション部 第三グループ グループ長)はこう話す。

「まず、データの利用状況(更新状況)を分析し、更新がないデータは、あらかじめ時間をかけてクラウドに移行し、日々のデータ同期が必要なデータを極力絞り込んで、夜間バッチの時間内での同期を実現しました。BigQueryは並列処理によるパフォーマンス劣化がリニアには発生しないことが特徴です。その特徴を最大限に利用し、並列処理を実装したのです。ユーザー対応については、ユーザー部門とIT部門、日本情報通信が三位一体となって、コミュニケーションを密にして進めました。クラウド移行に際してはシステム凍結時間が多少は発生したのですが、密なコミュニケーションによってスムーズに対応できました」(坂元氏)

BigQueryに対応していなかった分析ツールへの対応として、開発元の米国本社まで出向いてBigQuery接続のためのアダプター開発を依頼。アダプターのリリースを受けてすぐに検証し、製品課題を洗い出して業務部門と早期に問題点のすり合わせをし、4カ月程度でBigQueryのみの構成に移行した。

複数の分析基盤や分析ツールを統合、データ鮮度をさらに高めガバナンスも確保

クラウド移行によって、データは無制限に蓄積できるようになった。また、処理のパフォーマンスは中間DWHで既存品質を維持しておき、アダプターでBigQueryに直接接続した後に、数倍に跳ね上がった。データ鮮度についても、1日前のデータを当日の昼までには見ることができるようになった。

フェーズ2のプラットフォーム集約で直面した課題は、分散していたデータ分析基盤をどう統合するかにあったという。

「メインの分析プラットフォームがクラウド化したといっても、他にデータ基盤があるとデータを移す手間が発生してデータ鮮度が落ちてしまいます。また、分散したデータ基盤の維持コストもかかりますし、ITチームが管理していないデータのガバナンスも課題になります。ビジネスユーザーは分析をしたいのであって、データ基盤のメンテナンスをしたいわけではありません。必要なときはIT部門がサポートしていましたが、システムの安定性に課題がありました。これらを解消するために取り組んだのが、個別のデータ基盤の廃止と全社データプラットフォームへの集約でした」(児玉氏)

プラットフォーム集約に当たって日本情報通信が支援したのは、複数のデータ基盤や分析ツールの統合作業だ。分析ツールは全社でBI(ビジネスインテリジェンス)ツールとして統一し、各事業部が管理していたクラウドDWHなどは全社データプラットフォームとしてBigQueryに統合した。利用しているツールや環境を廃止するために、事業部門との交渉も必要になったが、日本情報通信の支援もあり、スムーズに統廃合を進めることができたという。

「統合前は既存BIツールで処理を行うためにデータ連携が発生していましたが、クラウド上のデータ基盤に処理を移行することでデータ連携を無くすことができました。また、既存BIの処理は特有の言語で実装されていましたが、処理を一つずつ解きほぐしていき、クラウド上のデータ基盤ではPythonおよびSQLで実装。汎用(はんよう)性の高い仕組みとなりました」(坂元氏)

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ASKUL EARTHアフター(提供:アスクル)

日本情報通信にはGoogle Cloudの専門部隊が存在し、大量データの移行や実装方法の提案、システムアーキテクチャの設計などを支援してきた(※)。また、複数のツールを取り扱っており、その経験が豊富だったことも成功のポイントだ。

※日本情報通信はGoogle Cloud関連ビジネスをさらに強化するため、現在は、Google Cloud/Google Workspaceをベースとしたクラウドネイティブなインテグレーションサービスを「XIMIX(サイミクス)」というブランドで展開している。

XIMIX

3つのポイントを抑えてデータの活用を促進、Data Catalogを活用した情報共有も

プラットフォーム集約によって、事業部のデータ基盤に関連するバケツリレーがなくなり、データ鮮度がさらに向上。1日前のデータを見るのに、当日の午前9時までに見ることができるようになった。さらにデータを統合したことで、ガバナンスやメンテナンスの課題も解消した。部門ごとに基盤やツールを利用することによるコストの削減にもつながった。

その上で進めたのがフェーズ3のプラットフォーム進化だ。

「ワンプラットフォーム化したことで、ユーザーにいかに使ってもらい、ビジネス効果を生んでいくかが次のテーマになりました。ようやく本質的な取り組みができる状態になったのです。データの活用を促進するポイントは3つあると思っています。1つ目は、利用者の幅を広げること。2つ目は利用データを増やすこと。3つ目は利用できるサービスの拡大です」(児玉氏)

1つ目については、社内向けに使いやすさを追求するために、データディスカバリーに向けたインデックスやカタログの情報を充実させることに取り組んでいる。具体的には、Google Cloudの「Data Catalog」を導入、活用している。また、ビジネス部門が主体となり、ドメイン知識やツールを扱うスキルの教育にも取り組んでいる。社外向けには、メーカーとデータを共有して、商品開発への活用を推進している。4000億を超えるビジネストランザクションを持つアスクルの強みをさらに伸ばす取り組みだ。

2つ目は、ASKUL EARTHに取り込んでいないデータの発掘だ。ビジネスの進化と必要性に応じて、必要なデータをきちんとデータとして活用できるようにする。またオープンデータへの取り組みを強化していく。

「3つ目は、Google Cloudの最先端の機能を社内のユーザーに気軽に使ってもらうことです。そのための仕掛けをどんどん作っていきたいですね」(児玉氏)

これらの取り組みも日本情報通信とタッグを組んで進めている。

「日本情報通信は、Data Catalogを用いてテーブルの変更を検知して情報を更新する仕組みを実装しました。社内で使われている『Atlassian Confluence』(企業向けウィキ)と連携させて素早く情報を共有できます。今後も、ユーザー部門の課題を整理、深堀して、Google Cloudのサービスを整理してマッチングしていこうと思います。BigQueryの強みであるデータ処理に加え、機械学習やサードパーティーのエコシステムを用いることで、アスクルさまのビジネス拡大を共に支えていきます」(坂元氏)

アスクル様事例紹介

左から日本情報通信の坂元氏、アスクルの児玉氏

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アスクル株式会社

1993 年に事業所向け通販サービス「ASKUL」事業、2012 年には個人向け EC 「LOHACO」を開始。全国 10 拠点の自社 EC 物流センターから、全国に当日・翌日配送「明日来る」を実現しています。商品開発からラストワンマイルまで担うバリューチェーンにおいて、メーカーやパートナーとの共創を推進し、データとテクノロジーを最大活用してサイバー・フィジカル両面からのビジネストランスフォーメーションを進めています。当社のパーパス〈仕事場とくらしと地球の明日に「うれしい」を届け続ける。〉を実現する社会インフラであり続けることを目指しています。

本社:   東京都江東区豊洲 3-2-3 豊洲キュービックガーデン
創業:   1993 年 3 月
資本金:   21,189 百万円(2023 年 5 月 20 日現在)
従業員数: 3,574 名(連結 2023 年 5 月 20 日現在)
URL:   https://www.askul.co.jp/corp/

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日本情報通信株式会社
(略称:NI+C[エヌ・アイ・アンド・シー])

日本情報通信株式会社(NI+C)は、1985 年に日本電信電話株式会社(NTT)と日本アイ・ビー・エム株式会社(日本 IBM)の合弁会社として設立。システム開発から基盤構築、クラウド化への対応、社内外データ統合と AI による分析、EDI サービスやセキュリティ、ネットワークサービス、運用保守までをトータルに提供しています。「おもひを IT でカタチに」をスローガンに、様々な経験と最先端のテクノロジーでお客様の DX 推進を支援し、お客様の経営課題解決に貢献できる真のベストパートナーを目指しています。

本社:   東京都中央区明石町 8 番 1 号 聖路加タワー 15 階
設立:   1985 年 12 月 18 日
株主:   日本電信電話株式会社(65%)日本アイ・ビー・エム株式会社(35%)
資本金::  40 億円
従業員数: 1,286 名(2023 年 4 月 1 日現在 連結ベース)
URL:    https://www.niandc.co.jp/

●お問い合わせ

日本情報通信株式会社
【お問い合わせフォーム】https://www.niandc.co.jp/inquiry/
【メールアドレス】NIC_Contact@NIandC.co.jp

  • 記載の会社名、商品名、サービス名は各社の商標または登録商標です。
  • このページの内容は TechTarget ジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に 2023 年 7 月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。
    https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2307/28/news02.html

 

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