
NTN株式会社
ブラックボックス化&属人化の原因を排除
自動車事業の受発注業務を変革、EDIプログラムの乱立をNTNはどう解消した?

自動車や航空機などの回転を支えるベアリングを主力製品とする精密機器メーカーのNTN。
同社では数百本のEDIプログラムが乱立しており、受発注業務が滞るリスクがあったため、早期に対応する必要があった。その中で採用された方法とは?
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長年にわたる継ぎ足し改修を繰り返して個別開発してきたシステムやプログラムに依存し、業務が硬直化して顧客や取引先からの新たな要求に応えられない。プログラムの中身もブラックボックス化しており、変更や拡張も難しい。システム運用も属人化しており、その業務を担っているベテランが退職してしまうと誰も引き継げる者がいない――。このようなレガシー化したシステムへの対応に、多くの企業が苦慮している。
中でも大きな課題となっているのがEDI(電子データ交換)ではないだろうか。欧州のUN/EDIFACT、米国のANSI X12など、早くからEDIの標準化を進めてきた諸外国に対し、わが国では依然として業界や企業ごとにさまざまなEDIシステムが乱立している。受注側は基本的に発注側に合わせるしかなく、個別プログラムによってさまざまなフォーマットや業務要件に対応している。
DXがまだデジタル化/IT化と呼ばれていた2016年からこの課題に取り組み、基幹システムの刷新を経て標準化されたEDIの新たな体制を2020年に実現したのがNTNだ。同社も以前はEDIの個別プログラムがスパゲティ状態で入り乱れていたという。いかなる方法によってこの課題を解決したのだろうか。その取り組みを紹介する。
ブラックボックス化したEDIプログラムが乱立

NTNは1918年に創業した、100年以上の歴史を持つ精密機器メーカーだ。主力製品のベアリング(軸受)は自動車や航空機、鉄道車両、各産業機械などの回転を支えている。ベアリングが精密であればあるほど軸は滑らかに回転し、エネルギーロスは少なくなる。こうしたことから、ベアリングは環境保護をはじめとするサステナビリティーに貢献する技術としても注目されており、NTNはこれまでに培ってきたコア技術を活用して電動化や再生可能エネルギーなどの新領域に事業を拡大している。34カ国の212地域にベアリングや等速ジョイント(ドライブシャフト)の研究開発、生産、販売拠点を展開するなど、グローバル化にも積極的に取り組んでいる。
そのNTNが長年にわたって頭を悩ませ、危機感を強めていたのがレガシーシステムに起因するEDIの課題だ。NTNの北里健二氏(ICT戦略部 部長)は、「新たな得意先が追加されるたび、あるいは受発注の要件や仕様が変更されるたびに、各担当者が独自にEDIプログラムを作成し、基幹システムに登録してきました。その結果、数百本のEDIプログラムが乱立してしまいました。40年近く使い続けているプログラムもあり、中には仕様が分からないものもありました」と語る。

NTNの成田勇氏(ICT戦略部 国内販売グループ 担当課長)は、「現時点では問題なく動いていたとしても、これらのEDIプログラムが将来的にはどうなるか保証はありません。最悪の場合、お客さまやサプライヤーと受発注情報をやりとりできなくなる恐れがあり、早期のリスク排除が求められていました」と続ける。
こうした経緯の下、NTNはEDIプロセスの改革に向けたプロジェクトを2016年に開始した。複数のベンダーにRFP(提案依頼書)を投げ掛け、寄せられたソリューションを比較検討した結果、共にプロジェクトを推進するパートナーとして日本情報通信を選定した。その際に提案されたのがEDIビジネスプロセス標準化ソリューション「EDIPACK/OMS」だ。

EDIPACK/OMS の特徴(提供:日本情報通信)
花王が独自開発したEDIシステムが原点の標準化ソリューション

実は、NTNは以前から日本情報通信が運営するEGW(EDIゲートウェイサービス:自動車メーカーごとに異なる取引データや仕様の違いを吸収し、共通フォーマットに変換するマネージドサービス)を利用していた。提案に当たった日本情報通信の荒牧 勇一郎氏(EDI事業本部 ソリューション営業部 専任部長)は、「NTNにとって自動車メーカーは特に重要な取引先の一つであり、EGWのサービス提供を通じて私どもはそこで行われている受発注業務への理解を深めてきました。この実績を踏まえつつ、新たに提案したEDIPACK/OMSを高くご評価いただいたことが今回のパートナーシップにつながったと思います」と語る。
EDIPACK/OMSのベースとなるEDIPACKソリューションは、もともと大手日用品メーカーの花王が独自開発したEDIシステムを原点とするチェーンストア向けのソリューションだ。「商品価値をより速く正確に伝える」「小売業との信頼関係の構築」「小売業や生活者の声を“ よきモノづくり” に活かす」といったビジョンを掲げる花王は、外部の卸売会社を介することなく小売業と直接取引するビジネスモデルを徹底していることで知られる。そこで培った運用ノウハウをパッケージ化したものがEDIPACKソリューションだ。
そのEDIPACKソリューションの外販を担っていた花王の情報システム子会社が2008年に日本情報通信の傘下に加わったのを機に、製造業向けのEDIPACK/OMSの開発を強化した。

日本情報通信の勝呂勝巳氏(EDI事業本部 システム開発部 第二グループ グループ長)は「流通業と製造業という違いはあれ、同様にBtoBのビジネスモデルで顧客やサプライヤーと直接取引しているNTNでもこの仕組みは最適な形でマッチすると考えました」と語り、EDIPACK/OMSの特徴を次のように紹介する。
まずは“ 個別処理のブラックボックス化” の解消だ。「これまで個別プログラムによって行われていたEDIプロセスをEDIPACK/OMSに集約し、統一フォーマットへ変換することで共通化します。統一フォーマットから標準プロセスを経てクリーンな基幹連携データを作成し、基幹標準フォーマットで連携します。新規の取引先もプログラムレスで登録可能な他、受発注業務に関するさまざまな要件変更もEDIPACK/OMS上のフラグ変更やトランスレーター機能で対応できます」

EDIPACK/OMSはEDI運用の属人化解消にも大きく貢献する。「受発注業務全般を一元管理し、誰でも同じ品質で運用できる状態にします。各データの状態確認から再処理、スケジュール管理、マスター管理まで、複雑なオペレーションのほとんどを弊社の専門部隊がサポートするため、NTNに新たな運用負荷が生じることはありません」と語るのは、日本情報通信の藤生康太氏(EDI事業本部 ソリューション営業部 第二グループ)だ。
上記のような、EDIPACK/OMSを中心とした日本情報通信のソリューション提案を受けた北里氏は、当時を振り返りその内容を次のように評価する。
「EDIPACK/OMSによるEDIプロセス標準化の効果は非常に大きいと判断しました。新規のお客さまやサプライヤーについても、お待たせすることなく迅速に対応可能になります。受発注要件が変更されても、個々のEDIプログラムまでさかのぼって修正する必要がなくなることで業務継続上のリスクが低減します。EDI運用の属人化解消は工数削減やコスト削減の効果をもたらします。これらのメリットによって、ICT戦略部は基幹システムの刷新やデジタル変革に専念できるようになると期待しました」
個別処理をオフロードして基幹システムをスリム化
北里氏の言葉にもあった通り、途中で基幹システムの刷新プロジェクトも挟んだこともあって若干期間は要したものの、個別開発された既存の全EDIプログラムを、2020年8月にはEDIPACK/OMSの標準プロセスに移行させた。以降2023年10月現在まで3年以上、安定運用を続けている。
「プロジェクトのスタート当初に期待した通り、新規のお客さまやサプライヤーの登録および受発注要件の変更作業は、手順書を見れば誰でも行えるようになりました。実務の対応スピードは大幅に向上し、お客さまの要求に応える取引をタイムリーに開始できるようになりました。『私たちに必要だったのは、まさにこういう仕組みだったのだ』と、あらためて実感しています」と成田氏は語る。
IT システムの運用面における絶大な効果として表れているのが、基幹システムのスリム化だ。従来の個別開発されたEDIプログラムは、ホスト上で運用してきた基幹システムの業務プロセスに直接実装されていたことからシステムの肥大化をもたらし、メンテナンスやアップデート、モダナイズを困難にするという悪循環を招いていた。
「基幹システムのレガシー化の元凶だった個別処理をEDIPACK/OMSにオフロードすることで、新たに導入したERPはアドオンを極力排除したシンプルな状態に保てました。見方を変えれば、EDIPACK/OMSとの連携を前提としたからこそERPを基盤とする基幹システムにスムーズに刷新できたと言えます」と北里氏は語る。
取引先ごとにプログラムを作成して基幹システムに実装していた内示プロセスや受注プロセス、受注変更プロセス、出荷プロセス、検収プロセスといった個別処理を切り離し、標準化した上でEDIPACK/OMSで運用。ERPの後続業務プロセスと連携するという形を取っている。
NTNは2023年3月期の決算報告と共に公開したマネジメントコミットメントの中で、主力の自動車事業においてEVシフトにさらに注力すると同時に新たな収益機会としてセンサーから収集したデータおよびソフトウェアを通じた状態監視など、サービス主体の事業を強化するという中長期展望を示している。既に風力発電装置の軸受や工作機械のスピンドル(回転軸)の軸受など、さまざまな装置に対応した状態監視システムを用意する他、NTNポータブル異常検知装置を使用した軸受の診断レポートビジネスを実用化しているという。
これまでとまったく違う業界・業種の顧客やサプライヤーとの取引が拡大することが予想されており、EDIPACK/OMSは今後ますます重要な役割を担っていくことになりそうだ。
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