
日本ハム株式会社
ITインフラ移転やベンダー変更には、業務停止のリスクや複雑な調整、専門人材不足など、さまざまな要因から困難が伴う。突然のデータセンター移転を迫られた日本ハムは、この事態をどう乗り越え、ITインフラの変革を具現化したのか。
緊急事態をメンバー一人一人の成長機会に
「ピンチをチャンスに」日本ハムが実現した将来を見据えたITインフラ変革の英断
ITインフラ移転やベンダー変更には、業務停止のリスクや複雑な調整、専門人材不足など、さまざまな要因から困難が伴う。突然のデータセンター移転を迫られた日本ハムは、この事態をどう乗り越え、ITインフラの変革を具現化したのか。
主要システムを運用してきたデータセンターの突然の廃止が決定

取締役 ITサービス第3事業部長
小西正俊氏
日本ハムシステムソリューションズ 取締役 ITサービス第3事業部長の小西正俊氏は、「まったく予想もしていなかった出来事で、しかも期限も決まっていたことから、かなり厳しい対応が強いられることになると震えました」と振り返る。
しかも閉鎖対象は関西のデータセンターだけではなかった。その1年後には、関東のデータセンターも閉鎖になることが明らかになった。両データセンターで運用しているシステムは相互に緊密に連携し合っているため、コストや体制面からもバラバラに移転作業を進めるのは得策ではない。こうした判断から、2025年12月末をデッドラインとした両データセンターの統合移転に臨むことになった。
ただ、この緊急事態を必ずしも逆風としてのみ受け止めたわけではない。そもそも両データセンターで運用してきたITインフラや各システムは、どちらかといえば個別最適/事業最適で作られた仕組みで成り立っていたからだ。AI(人工知能)をはじめとする新たなテクノロジーの急速な変化に追随し、ニッポンハムグループのDX戦略を推進していくためには、ITインフラやシステムの在り方を根本から見直す必要があった。
日本ハム IT戦略部 部長の中村吉宏氏は、「今回のミッションは単なるデータセンター移転ではなく、ITインフラ全体の変革を成し遂げるための絶好のチャンスです。前向きにチャレンジしましょう」と皆にげきを飛ばした。こうして立ち上がったのが「紡(つむぎ)プロジェクト」である。このプロジェクト名には、「皆の知見と知恵を全てつないでいき、さらに後世にも引き継いでいく」という思いが込められている。
「紡プロジェクト」が目指したIT組織自体の業務標準化
紡プロジェクトを推進するに当たって掲げられたのは、「『IBM i 』上で運用している基幹システムと数多くのIAサーバ群の安全な移行による業務継続」「ITインフラ運用の平準化によるシステム運用品質の向上」「コスト削減」の3つの目標である。
「実のところ、従来のシステム運用は手作業が中心で、業務ごとに個別最適化された手法や手順が乱立しており、雑然・混沌(こんとん)としていました。これがシステム運用工数やコストを上昇させる最大の要因にもなっており、結果としてIBM i のリソース監視についても月に1回程度しか実施できない状況にありました。要するにこの3つの目標は、全て同じ課題を根元として深く関連し合っています」(小西氏)
その上で重視したのが、グループのIT組織(日本ハムIT戦略部および日本ハムシステムソリューションズ)自体の業務標準化だ。中村氏は、「DX推進を通じて、各事業部門に業務標準化の必要性を強く説いておきながら、自らの変革が進んでいませんでした」と率直に明かし、「今回の紡プロジェクトを一人一人の成長機会とし、組織全体にマインドチェンジを促すため、あえて若手のメンバーをリーダーに据えることにしました」と振り返る。
そして日本ハムは、このプロジェクト体制をさらに強化すべく、多くの企業の基幹システムの運用を手掛け、また15年以上にわたりIBM Power基盤(IBM i /AIX)の自社クラウドサービスも提供し続けているNTTインテグレーションを新たなSO(戦略的アウトソーシング)のパートナーに選定した。

中村吉宏氏
NTTインテグレーション 執行役員 クラウド事業本部 本部長の奥迫勇一郎氏は、「お客さまの事業を根幹から支える重要システムの全てを弊社がお預かりすることになるのですから、本当に身が引き締まる思いでした」と、その責任の重さを語る。
一方で、中村氏から求められたのが、「たとえ日本ハム側メンバーから出された要望だったとしても、そのまま安直に運用に巻き取らないでほしい」ということだった。日本ハムがこれまで当たり前と考えてきた運用方法は、世の中のスタンダードに沿っているのか、それとも独自路線に乖離(かいり)しているのか――。「『IT組織の内側にいる自分たちには分からないだけに、外部の客観的な視点からしっかり見極めてほしい。NTTインテグレーションの知見に期待する点はそこにこそある』と、中村部長から何度もお言葉を頂きました」と、奥迫氏は振り返る。
こうして、紡プロジェクトがキックオフした時点から徹底して取り組んできたのが、日本ハムのIT戦略部と日本ハムシステムソリューションズ、そしてNTTインテグレーションの3社による「意向と認識のすり合わせ」である。

執行役員 クラウド事業本部 本部長
奥迫勇一郎氏
「3社合同の『分科会』が立ち上がり、参加者がフラットな立場で議論し合うことで、システムのブラックボックスを解消していきました。この分科会のおかげで、紡プロジェクトは一枚岩になれた気がします」(小西氏)
NTTインテグレーション クラウド事業本部 事業企画部 部長の波多野憲男氏は、「分科会ではまず現状のシステム運用形態を明確にした上で、ITインフラ変革後に弊社サービスでご利用いただけること、運用形態を変革する必要があることを切り分けました。既存のデータセンターが閉鎖されるデッドラインが迫る中、あえて3カ月の期間をかけて要件定義を行い、やるべきタスクを整理したことが、プロジェクトの成功につながりました」と語る。

プロジェクトメンバー一人一人の成長にも大きな手応え
2025年11月現在、紡プロジェクトはすでにデータセンター移転を無事に完了。「移行後の基幹システムの業務継続」「ITインフラ運用の平準化によるシステム運用品質の向上」「コスト削減」といった当初からの3つの目標も全て達成されている。
これによって得られた成果の一つが、「日常的なシステム監視」の実現だ。「これまで各サーバに個別にログインして手動で収集・確認していたリソース消費状況、死活状況、実行中のプロセス、ログ収集など、多岐にわたる情報がダッシュボード上に集約されて可視化され、リアルタイム監視が実現しています。今回、IBM i 上で運用してきた基幹システムをクラウドに移行したのですが、こちらも一元的な監視が可能で、より安定した基幹システムへと運用品質を向上しています」(小西氏)
そして、これらを実現しているのが、NTTインテグレーションが「ServiceNow」をコアにしながら、APM/NPM(アプリケーション性能管理/ネットワーク性能管理)などのサービスも組み合わせて提供しているITシステム運用サービスだ。
システム運用の標準化についても劇的な前進が見られる。「システムごとに乱立していた運用保守手順のうち、70~80%を標準的なITサービスマネジメントのプロセスに集約できています」(波多野氏)
結果として、運用担当者の大幅な負荷軽減と業務効率化に寄与しており、「余力のできた時間を新たなシステムの企画や開発など、よりクリエイティブな仕事に振り向けることが可能になりました」(小西氏)
そして特筆すべきは、紡プロジェクトに携わってきたメンバー一人一人の成長だ。

クラウド事業本部 事業企画部 部長
波多野 憲男氏
今回のプロジェクトマネジメントでは、四半期ごとの状況報告の際に各タスクの進捗(しんちょく)状況を可視化し、遅延しているタスクの件数、それぞれの遅延度合い(%)、キャッチアップまでに要する日数を明確にするなど、数値管理を徹底してきた。
「デッドラインが決まっていたデータセンター移転を、絶対にスケジュール通りに完了させるために必要な施策だったのですが、各メンバーはプロセスを可視化することの大切さを自らの身をもって学びました。また、プロジェクトを完遂した達成感を得たことで、大きく伸びてくれたと日々実感しています」と中村氏。
「プロジェクトに携わった若手メンバーの成長は、NTTインテグレーション側も同じです。多くの厳しい課題を乗り越えたことで、『次のプロジェクトもいけるぞ』という前向きなモチベーションが高まっています」と奥迫氏も続ける。
5つの重点項目を柱とする新たなプロジェクトに臨む
もっとも紡プロジェクトの成功は、新たな取り組みへのスタート地点に過ぎない。
中村氏は、次の5つの重点項目を柱とする今後のIT戦略を描いている。
第1は、システム標準化の継続。「弊社はレガシー化したグループ会社の基幹システムを含め、『SAP』環境を『Amazon Web Services』上に統合/再構築する『Connect Project』を2019年から推進してきました。この取り組みとも足並みをそろえる形でシステム運用保守手順の標準化をさらに進め、QCD(品質、コスト、納期)改善を図ります」(中村氏)
第2は、グローバル化への対応。日本ハムにとってグローバルなブランド展開は中期経営計画にも掲げられた成長戦略の一つだが、そこでも不可欠なのがITだ。「やみくもなシステム展開ではなく、グローバルITガバナンスをどうやって効かせるかが重要なポイントとなります」(中村氏)
第3は、AI活用の拡大。「単なる業務効率化や省力化にとどまらず、ニッポンハムグループの付加価値創出につなげていきます」(中村氏)
第4は、セキュリティの強化。「弊社もITの依存度が高まっており、もはやシステムなくして業務は回りません。経営リスク管理の観点から、レジリエンス(回復力)を考慮したセキュリティレベルの向上が不可欠です」(中村氏)
そして第5が、最も重要なテーマとする人材育成と組織の成長だ。「紡プロジェクトを通じて培った“変える力”を、新たなプロジェクトでさらに進化させていきます」という中村氏の言葉には、さらなる高みを目指す決意が込められている。

※この記事は、2026年1月に掲載されたアイティメディア編集局制作コンテンツを再構成したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2512/26/news01.html
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