
日本ハム株式会社
データセンター閉鎖という “ 待ったなし ” の事態に直面したニッポンハムグループ。インフラ刷新と IBM i のクラウド移行 を軸に基幹基盤を一新。短期で移行をやり遂げた、その舞台裏に迫る。
インフラモダナイゼーションへの挑戦
“待ったなし”の事態から日本ハムはいかにしてインフラ刷新を成功させたのか
データセンター閉鎖という “ 待ったなし ” の事態に直面したニッポンハムグループ。インフラ刷新と IBM i のクラウド移行を軸に基幹基盤を一新。短期で移行をやり遂げた、その舞台裏に迫る。
データセンター閉鎖で決断したIBM i で稼働する業務システムのクラウド移行
日本ハムの IT 子会社として、ニッポンハムグループ全体のさまざまな業務システムの構築や運用管理を担っている日本ハムシステムソリューションズの IT サービス第 2 事業部 食肉運用グループでグループリーダーを務める川合耕介氏は、「オンプレミスの『IBM Power』で IBM i を稼働させているため、ハードウェアリソースの増強が困難な状況にありました。特に深刻だったのがストレージです。ディスク使用量は常に 80%を超えており、頻繁なクリーンアップ作業が求められる他、障害も月に 3 回ほど発生して昼夜を問わず対応しなければなりませんでした。貴重な人的リソースを、本来のミッションとは異なるこうした作業に割かざるを得ないことに悩み続けていました」と振り返る。
そうした状況に輪をかけて発生したのが、2023 年 7 月の衝撃的な出来事だった。主要システムの運用を委託していた IT サービス会社から、データセンターを 2025 年 12 月末で閉鎖することが通達されたのだ。いきなり“ 待ったなし ” の事態に直面した同社が向かったのが、グループ全社を挙げた「紡(つむぎ)プロジェクト」に基づく、IBM i を含む IT インフラの大規模なクラウド移行だった。

IT サービス第 2 事業部
食肉運用グループ
グループリーダー 川合耕介氏
インフラ全体の変革を成し遂げる絶好のチャンスと捉えた
日本ハムシステムソリューションズでは、当時すでに IBM i を基盤とする各基幹システムのクラウド移行の検討を進めている過程にあった。まさにその矢先に直面したのが、データセンター閉鎖だったのである。そのために計画を大幅に前倒しせざるを得ず、何よりもデータセンターの閉鎖期限から遅れることは絶対に許されなかった。
ただ、この緊急事態を同社はインフラモダナイゼーションへの挑戦機会として捉えた。IBM i 上の基幹システムだけに限らず、このデータセンターで運用してきた多くのシステムは、個別最適/事業最適で作られた仕組みで成り立っていたからだ。AI(人工知能)をはじめとするテクノロジーの変化に追随した DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を推進していくには、IT インフラやシステムの在り方を根元から見直す必要があった。
日本ハム IT 戦略部 部長の中村吉宏氏からも、「今回のミッションは単なるデータセンター移転ではなく、インフラ全体の変革を成し遂げるための絶好のチャンスだ」と檄(げき)が飛ばされた。こうして立ち上がったのが、紡プロジェクトだった。「どうせリスクを背負うなら、ひと手間かけてより安全かつ柔軟な基盤に移すべきだ」と川合氏は判断し、IBM i モダナイゼーションに当たるプロジェクトチームを編成した。
そこでパートナーとして選んだのが NTT インテグレーションだ。「実は 2016 ~ 17 年ごろにも一度、IBM i のクラウド移行の提案を受けていました」と川合氏。当時はクラウド化について具体的に検討は進まなかった。しかし、今回はインフラ全体の変革の命題の下、実績と技術力を評価しパートナーとして選定した。
そして現行の IBM i の移行先に決定したのが、NTT インテグレーションが提供している「PowerCloudNEXT」だった。PowerCloudNEXT は、IBM Power サーバを用いた「IBM i 」および「AIX」のシステムリソースを IaaS(Infrastructure as a Service)で提供するクラウドサービスだ。

新たなプラットフォームとして「PowerCloudNEXT」を選んだ理由

クラウド事業本部
クラウドビジネス部 第三グループ
グループ長 佐野圭司氏
もちろん IBM i モダナイゼーションに際しては、プラットフォームを丸ごと刷新するという選択肢がなかったわけではない。それでもIBM i ベースでのシステム継続を選んだ背景には明確な理由があった。「将来的には SAP S/4HANA への移行も視野に入れていますが、現行の IBM i 上のシステムは自分たちで内製してきた仕組みであり、新たな業務要求に対しても高い自由度で対応できるのです」と川合氏は説明する。
加えて IBM i には、他のプラットフォームにはないメリットがある。サイバーセキュリティに対する堅牢(けんろう)性もその一つだ。 NTT インテグレーション クラウド事業本部 クラウドビジネス部第三グループ グループ長の佐野圭司氏は、「弊社が把握している範囲内では、IBM i におけるランサムウェアの被害は確認されていません。オブジェクトベースで設計された独自のアーキテクチャでサイバー攻撃を阻んでいるのです」という。
長期的なサポートロードマップにも大きな安心感がある。IBMは2025 年 4 月に IBM i の最新バージョン「IBM i 7.6」を発表したが、併せて 2 世代先までの計画も公開した。これに基づくサポート期間は実に 2038 年まで及ぶ。
NTT インテグレーション クラウド事業本部 クラウドサービス部第四グループの宍戸康司氏は、「今後、7.6 の次期リリースが発表されれば、直ちにそれから 2 世代先の計画が示され、次のリリースが発表されればさらに 2 世代先の計画が示されるという形で、サポートロードマップ自体がアップデートされていきます。これほど長期間にわたる運用継続がコミットメントされたプラットフォームは、IBM i 以外に見たことがありません」と強調する。

クラウド事業本部
クラウドサービス部 第四グループ
宍戸康司氏
一方で懸念されたのは、これまで RPG(Report Program Generator)言語によって開発されてきた各システムのメンテナンスだった。若手エンジニアに対して、今から RPG のプログラミングスキルを習得させるのは得策とはいえず、そんな労力をかけるくらいなら、違った能力開発やスキル育成に力を注がせたいというのが日本ハムの本音だった。
「最新技術導入に対する積極的な取り組みからも、IBM i は決してレガシー化したシステムではありません。今後の DX を見据えた基幹システムのモダナイゼーションにも、しっかり対応していけると判断しました」と川合氏は語る。
なお IBM は、生成 AI を活 用した「IBM watsonx Code Assistant for i」の開発を進め、RPG 開発のモダナイゼーションを推進しようとしていた。同ソリューションは、自然言語によるコード生成やテストプログラムの自動作成、既存コードの解説生成に加え、従来の固定形式(RPG III や ILE RPG)から最新のフリーフォーム RPG への変換機能の実装も視野に入れている。
さらに IBM は、開発の自動化を次なるステージへ進めるべく、AIエージェント型 IDE「IBM Bob」の開発を進めている。「IBM Bob」は単なる支援ツールにとどまらず、開発者のパートナー(AI エージェント)として自律的にタスクを遂行することを目指した野心的なプロジェクトだ。これらがリリース・普及すれば、長年の課題であった RPG 技術者の不足問題は、抜本的な解決へと向かうことだろう。
IBM i モダナイゼーションがもたらしたシステム改善の多大な成果
実際、PowerCloudNEXT をベースとしたことで、IBM i のクラウド移行とモダナイゼーションはスムーズに進行した。
「業務遂行に与える影響度の小さいものから順に3段階に分けて移行を実施し、2025 年 7 月14日に食肉システムをカットオーバーできました。切り替えの際も約 5000 本のテストを実施しましたが、発生したエラーは 1%の 50 本でした。しかも、これはもともとシステムに潜在していた不具合によるものも含みます。IBM i のバージョン違いに起因するエラーのみに限定すれば 10 本程度で、エラーはわずか 0.2%に抑えられています」と川合氏。
「エラーが起こったとしてもシステムが全く動かないわけではなく、IBM i ならではの互換性の高さが際立ちました。仮に異なるプラットフォームへの移行を選択していたならば数年がかりの長期計画を覚悟しなければならないところ、約 1 年間という圧倒的な短期間で移行を完了できました」と佐野氏が続ける。
移行完了から数カ月が経過した現在、日本ハムの食肉事業を中心とした基幹システムには多くの改善効果が現れている。
「NTT インテグレーションにインフラ運用を任せられるようになった業務負荷軽減の効果は絶大で、特にハードウェアの稼働監視や障害対応に手を煩わされることがなくなりました。加えて最新のIBM i へのバージョンアップとサーバ更新により、各システムのレスポンスも向上しています」と、川合氏は実感を示す。
一方、NTT インテグレーション側からアピールするのが、これまでシステムごとにばらばらになっていた運用方法の標準化と品質向上だ。「トータルで数十にも及ぶシステムをお預かりすることになるに当たり、最も注力したのが運用ルールの統一化と、SLA(サービスレベル契約)のレベル合わせでした」と宍戸氏は語る。
もちろんこの効果は、日本ハムシステムソリューションズ側でも認識しており、「私たちは業務視点での管理に専念できるようになりました。アウトソースすべきタスクと内製で対処すべきタスクの役割分担も明確になり、ミッションクリティカルな基幹システムの安定稼働につながっています」と川合氏は高く評価する。
その他、システムの TCO(総所有コスト)の大幅削減や、万が一システム停止が発生した場合の RTO(目標復旧時間)/ RPO(目標復旧時点)の改善など、今回の IBM i モダナイゼーションによって得られた効果は枚挙にいとまがない。
ただし、ここまでの取り組みはゴールではなく、あくまでも本格的な DX 推進に向けたスタート地点に立っただけに過ぎない。
川合氏は「新たな施策としては NTT インテグレーションと弊社メンバーの合同により、システム構築・運用に関する知見を集約した CoE(センターオブエクセレンス)のフロントグループのような体制を立ち上げたいと考えています」と語る。これまでのように各システムの担当者と個別にやりとりするのではなく、統合的な窓口を通じた一元対応で、より戦略的な視点に基づいたシステム改善や拡張を進めていく構想だ。
佐野氏も「各システムのユーザーの発想を喚起する UI/UX(ユーザーインタフェース/ユーザーエクスペリエンス)のモダン化や生成AI 活用など、ニッポンハムグループさまの DX を後押しするためにやるべきことは、まだまだ残っています」と意欲を示し、日本ハムシステムソリューションズとの二人三脚で、かつてないシステムの価値創出に取り組んでいく構えだ。

中左:NTT インテグレーション クラウド事業本部 クラウドサービス部 第四グループ 宍戸康司氏
中右:日本ハムシステムソリューションズ IT サービス第 2 事業部 食肉運用グループ グループリーダー 川合耕介氏
右:NTT インテグレーション クラウド事業本部 クラウドビジネス部 第三グループ グループ長 佐野圭司氏
※この記事は、2026年 1月に掲載されたアイティメディア編集局制作コンテンツを再構成したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2512/26/news03.html
copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
◆日本ハム株式会社 紡プロジェクト3部作 関連記事
緊急事態をメンバー一人一人の成長機会に
「ピンチをチャンスに」日本ハムが実現した将来を見据えたITインフラ変革の英断
https://www.niandc.co.jp/examples/scene49/
「監視」と「インシデント管理」を抜本改革
日本ハムが“逆境こそ、わが道なり”の精神で挑んだ「IT運用の高度化」とは
https://www.niandc.co.jp/examples/scene51/