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HRテックカンファレンス2024視察レポート

投稿者:岡崎 剛士

2024年9月にラスベガスで開催された「HRテックカンファレンス」を視察しましたので、HRテックにおけるAI活用をテーマとして視察内容を解説します。

HRtechカンファレンスとは

HRテックカンファレンス(HR Technology Conference & Exposition)は、毎年アメリカで開催される人事・労務分野における最大規模のテクノロジー関連イベントの一つです。このカンファレンスは、主に人事(HR)専門家、技術プロバイダー、ビジネスリーダーが集まり、最新のHRテクノロジーやソリューションについて議論し、共有する場として知られています。

HRテクノロジーにおけるAIの活用について

今回のカンファレンスでは、HR分野におけるAI活用の事例が多数紹介され、さまざまな製品やツールが取り上げられました。以下では、具体的な製品名と事例を交えながら、HRテクノロジーにおけるAIの活用について詳しく解説します。

1. AIによる従業員体験の向上

AIは従業員の業務効率化と体験向上に大きく貢献しています。特に、ServiceNowの生成AIを活用した従業員ワークフローの最適化がその代表例です。ServiceNowのデモブースでは、従業員が自然言語で質問するだけで必要な情報を瞬時に取得し、迅速な業務遂行を支援する様子が解説されていました。

具体例:

ServiceNowのAIを使ったシステムでは、従業員が「休暇残日数を教えて」と質問すると、AIが自動でその従業員のデータから残りの休暇日数を算出し、「あなたの残り休暇日数は10日です。休暇を申請しますか?」といった提案を行います。これにより、従業員が複数のシステムを操作する必要がなくなり、業務効率の向上が見込まれます。

2. 業務効率化とコスト削減

AI技術、特にMicrosoft VivaMicrosoft 365 Copilotなどの製品は、HR部門全体の業務を統合し、従業員が必要な情報にアクセスしやすい環境を提供するとの説明がありました。これにより、サポート部門への問い合わせが減少し、業務プロセスが効率化されます。

さらに、ルーチン作業をAIに任せることで、従業員はより高度な業務に集中できるようになり、企業全体の生産性が向上します。たとえば、Copilotは自動で会議の要約を行い、従来1時間かかっていた議事録作成を数分で完了することが可能です。こうした効率化により、従業員一人当たり年間で数百時間の労働時間を節約できるという説明がありました。

具体例:

Lumen社では、Microsoft Copilotを導入した結果、従業員一人当たり週に4時間の作業時間が節約され、年間で5000万ドル以上のコスト削減が期待されています。また、Cognizant社では、AIを活用することでメール処理時間を10%削減し、会議を早く終了させる頻度が27%向上しました。これらの成果は、AIの導入による業務効率化の具体例として挙げられます。

3. スキルベースの人材管理

AIを活用することで、従業員のスキルを詳細に分析し、スキルベースの人材管理を実現することができます。たとえば、LinkedInのスキル分析ツールは、従業員のスキルセットを自動で評価し、必要なスキルを特定するために活用されています。これにより、スキルに基づく採用や教育プログラムの最適化が可能となり、組織の柔軟性と競争力が向上します。

具体例:

AIを利用したスキル分析により、従業員のスキルギャップが特定され、そのギャップを埋めるために適切なトレーニングプログラムが提案されます。例えば、SAP SuccessFactorsのAI(Jewel)は、従業員の職務履歴や過去の学習履歴を基に、次に学ぶべきスキルや受講すべき研修コースを提案します。これにより、従業員のスキルアップが効率的に進みます。

4. AIによる従業員エンゲージメントの向上

AIは従業員のエンゲージメントを高めるためにも活用されています。例えば、WorkdayのAIを利用することで、従業員のフィードバックをリアルタイムで分析し、エンゲージメント向上のための施策を提案することが可能です。また、従業員ごとのパーソナライズされたサポートを提供し、業務の質と満足度を向上させます。

具体例:

「静かな退職(Quiet quitting)」と呼ばれる従業員のエンゲージメント低下への対策として、WorkdayのAIは従業員のパフォーマンスデータを分析し、ストレスの兆候が見られる従業員に対してメンタルヘルスのサポートを提供するなど、個別対応を行っています。これにより、従業員のモチベーションを維持し、エンゲージメントを向上させることができます。

5. リーダーシップにおけるAIの役割

AIはリーダーシップ支援のツールとしても重要です。SalesforceのEinstein AIはリーダーがデータに基づいた意思決定を行えるようにサポートし、日常業務を効率化するためのツールを提供します。Einstein AIを活用することで、リーダーは従業員のパフォーマンスをリアルタイムで追跡し、個別に最適化されたフィードバックを提供できます。

具体例:

SalesforceのEinstein AIは、リーダーが意思決定を行う際のサポートツールとして、複数のシナリオをシミュレーションし、その結果を予測することでリスクを軽減します。また、リーダーはAIを用いてチームのパフォーマンスを可視化し、メンバーのスキルに基づいてプロジェクトの割り当てを最適化することが可能です。これにより、リーダーはより戦略的な意思決定が行えるようになります。

6. データ駆動のHR戦略

AIを活用したデータ駆動型のHR戦略は、組織のパフォーマンス向上に寄与します。たとえば、Microsoft Viva Insightsを活用して組織内のコラボレーションパターンを分析し、生産性を高めるための戦略を立てることが可能です。AIによるデータ分析を基に、従業員のパフォーマンスを向上させるためのアクションプランを策定します。

具体例:

Viva Insightsを使用すると、従業員の会議時間の短縮や、メール作成にかかる時間を削減するための提案を自動で行うことができます。たとえば、AIが「会議の要約」を提供することで、会議時間が大幅に短縮され、従業員はより戦略的な業務に集中できるようになります。Lumen社での導入事例では、この機能によって生産性が向上し、従業員の満足度も向上しました。


基調講演会場の様子


HR分野におけるAI活用に関する考察

今回のカンファレンスでは、AI活用事例が多く説明されていましたが、同時に考えさせられることも多くありました。以降は、HR分野におけるAI活用に関する考察です。

AI活用によるHRの変革とその意味

HR分野におけるAI導入は、単なる技術革新にとどまらず、組織全体の文化や働き方に大きな変化をもたらそうとしています。AIは従業員体験を改善し、業務プロセスを効率化するだけでなく、人材管理における意思決定の質を向上させる役割も果たそうとしています。これにより、特に北米企業は従来の職務基準から、スキルベースの組織作りへとシフトする企業も出てくるのではないでしょうか。AIの進化によって得られるデータ駆動型の戦略は、組織の柔軟性と適応力を高め、競争優位性を強化する重要な要素となっています。

AIによる自動化と人間の役割の再定義

AIの進化による自動化は、ルーチン業務の削減を可能にし、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作り出しています。しかし、この自動化は同時に「人間にしかできない」業務やスキルの重要性を浮き彫りにしています。創造力、対人スキル、複雑な問題解決能力など、人間ならではの強みがますます求められる時代において、AIと人間が協働するための新しい働き方のデザインが必要です。

AIが従業員の業務を自動化する中で、人間の役割が特に重要となるのは次の分野です。

  • 創造的問題解決:AIはデータに基づく予測や分析には強いですが、創造的な発想や新たなアイデアの生成はまだ人間の領域です。
  • コミュニケーションと共感:AIの感情分析は進化していますが、人間の感情を深く理解し、共感する能力は依然として人間の強みです。HR分野では、対人スキルの発揮が欠かせません。
  • 倫理的な判断:AIの意思決定はデータに依存するため、必ずしも倫理的な視点を持たないことがあります。人間が最終的な判断を下す際に倫理的な観点を取り入れることが重要です。

AI導入における課題とリスク

AIのHR分野での導入はさまざまな利点がある一方で、いくつかの課題とリスクも存在します。

1. データプライバシーの問題

AIが従業員のデータを分析する際、個人のプライバシーやデータセキュリティの問題が生じる可能性があります。特にセンシティブな個人情報を扱う場合には、法令遵守と倫理的配慮が不可欠です。AI導入を進める際は、データの収集と使用における透明性を確保することが求められます。

2. 技術への依存リスク

AIに依存しすぎると、人間の判断力が低下し、意思決定の質が損なわれるリスクがあります。例えば、AIが推奨する候補者をそのまま採用することで、偏りや誤判断が生じる可能性があるため、AIの結果を鵜呑みにするのではなく、人的なチェックが欠かせません。

3. 職業の消失と新たなスキルの需要

AIの進化に伴い、一部の職業は不要になる可能性があります。これに対しては、新たなスキルを習得するための研修や再教育の支援が重要となります。AIによる自動化が進む中で、どのように人材を再配置し、スキルアップを促進するかが組織にとっての課題です。

今後の展望とHR分野におけるAIの可能性

AIのHR分野での活用は今後さらに進化することが期待されます。特に以下の点での進展が注目されています。

1. AIを活用した戦略的な人材配置

リアルタイムのスキルデータと市場のトレンドを基に、AIは従業員を最適なプロジェクトやポジションに配置することを支援します。これにより、組織は人材リソースを効果的に活用し、ビジネスの迅速な変化に対応することが可能となります。

2. 生成AIによるトレーニングの個別化

従業員の学習ニーズをAIが分析し、パーソナライズされたトレーニングプランを自動で生成することで、個々の従業員に合わせた学習体験を提供できます。これにより、学習効率が向上し、スキルギャップを埋めるための取り組みが加速します。

3. エンゲージメント向上のための感情分析と行動予測

AIは従業員のフィードバックやパフォーマンスデータを用いて感情分析を行い、エンゲージメントの低下が懸念される従業員を早期に特定します。これにより、問題が深刻化する前に適切な対策を講じることが可能となります。

まとめ

AIのHR分野での活用は、従業員体験の向上、業務効率化、戦略的意思決定の質の向上など、さまざまな面で企業にメリットをもたらします。ただし、その導入には技術的・倫理的な課題が伴うため、AIと人間の協働による新たな働き方をデザインすることが求められます。企業がAIを適切に活用することで、持続的な成長を実現し、変化の時代において競争力を保つことができるでしょう。

今後、AI技術がさらに進化するにつれて、その活用範囲も広がり、HR戦略の中核を成す存在となることが期待されます。企業はAIを取り入れたデジタルトランスフォーメーションを進めることで、未来に向けた強固な基盤を築いていくことが求められます。

お知らせ

当社では、HR分野に関するソリューションを取り扱っております。HR分野での相談やお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。お問い合わせはこちらから。

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