『教えてヒロさん!』
~ 藤野裕司のEDI・データインテグレーション追っかけ塾 ~
投稿者:藤野裕司
藤野裕司(ふじのひろし)がEDIやデータインテグレーションのトレンドをわかりやすく解説していきます
<第1回>
さて、いよいよ今回から本編に入ります。
1. データインテグレーション編
~データ連携・データ統合の現状と未来~
最近、EDIという言葉が非常に幅広くとらえられるようになってきました。それだけ企業のデータ連携・データ統合が重視され、企業の枠を超えたデータの扱いが増えてきたということだと認識しています。
ここでは、この流れをデータインテグレーションとして新たな時代の要望とそれに合わせたシステムのあり方についてご説明します。
1-1.動き始めたデータインテグレーションの世界
まず 、データインテグレーションとは、複数の異なるデータを統合し、一つの一貫した情報体系に整理・管理することを指します。これにより、異なるシステムや部門のデータがシームレスに連携し、全体の業務プロセスを最適化することが可能となります。
では、データインテグレーションに関係する世の中の動きを見ていきましょう。
この場合、国の動き、海外の政府の動きを見るのが一番早いかもしれません。もちろん、それが現実の社会の動きとは限りません。しかしそれは、しっかりと動向をとらえ研究し尽くし、今後どうしていけばいいのか検討を重ねた結果が提示されていると思います。
現場社会は、それをもとに実際自分たちが置かれている環境・業界の対応・保有システムなどを考え合わせて、次の打つ手を考えなければなりません。
●時代は縦型社会から自律分散型社会へ
最初に思い当たるのは、社会構造が縦型から自律分散型へと変わっていっていることです。縦型社会とは上下の序列が重視される社会、自律分散型社会とは一極集中を避けて個別で自律した社会のことを指します。
身近な世界で考えてみると、総合スーパー(GMS)の数が減り、コンビニ、小型食品スーパー(SM)、ドラッグなど、特徴を表した小型の店舗が増えてきたことです。
また、ホームセンター、ディスカウントストア、ドラッグストアなども、その境界がなくなりつつあります。
自律分散型社会では、このように目的別機能が自律して事業を行い、その事業領域も近傍の業態と境目がなくなりつつあるわけです。
当然ながら、ビジネスが変わればそれに応じて産業システムも変貌を余儀なくされるわけなのです。
●内閣府は「Society5.0」を提唱
国は、いち早くその変化を読み切りました。最初に発表したのが、2016年内閣府が提唱したSociety5.0です。これは、情報技術(IT)、ロボティクス、人工知能(AI)を活用して、持続可能な未来を実現することとされています。それが実現される社会は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた人間中心の社会(Society)とされています。
※Society5.0:内閣府の定義 [ https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ ]
出典:内閣府サイトより
いまいちわかりにくい表現です。
たとえるなら、これまではパソコンを使った目に見えるITを活用する世界、一方これからは知らないうちにITを使いこなしている世界、ということじゃないでしょうか。今現在でいうなら、スマホを使っているとき、どこまでがスマホ側のアプリでどこからがクラウドのサービスかがわからないですよね。内閣府が提唱するSociety5.0は、このように現実とITの世界の境界がわからないような社会を目指していると思います。
●経済産業省は「ウラノスエコシステム」で実現を目指す
Ouranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)
[ https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230429002/20230429002.html ]
そこで、経済産業省が取り組む具体的な活動を見てみましょう。
「Society5.0」を実現するための仕組みとして、Ouranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)があげられます。
これは、企業や業界、国境を越えて、データを共有して活用する仕組みとして名付けられました。新たな付加価値の創出や社会課題の解決がもたらす「Connected Industries」。
みんながつながった社会をあらわしています。
出典:経済産業省サイトより
●ヨーロッパでは、「インダストリー4.0」の概念が日本より先行
「インダストリー4.0」とは、ドイツの工学アカデミーと連邦教育科学省が2011年に発表した技術的なコンセプトで、製造業のオートメーション化やデータ化、コンピュータ化を進めることを目指しています。この動きは一般に第四次産業革命と呼ばれています。
「インダストリー4.0」の中心となるのは、サイバーフィジカルシステムを使った「スマートファクトリー」の実現です。
スマートファクトリーでは、システムが実際の生産工程を監視・制御し、実世界の仮想コピー(バーチャルコピー)を作成し、可能な限り自律分散的に業務を実行します。
生産や流通工程のデジタル化、自動化やバーチャル化を大幅に進めることで、生産コストや流通コストをできるだけ低く抑え、生産性を向上させることを目的としています。
●インダストリー4.0を実現する仕組みとして「GAIA-X」が登場
また、EUでは2016年、インダストリー4.0を実現する仕組みとして「GAIA-X」が提唱されました。
これについては、この分野の大家であるNRIの藤野直明氏(同姓つながりで個人的にはナオさん)のお言葉を借りましょう。
※藤野直明氏執筆 「GAIA-X(ガイア-エックス)とカテナ-Xの衝撃 データ連携による巨大なエコシステムの台頭」 を参照
GAIA-Xは、第4次産業革命の一環として、2016年頃からドイツやEUで、ドルトムント工科大学のボリス・オットー教授を中心に、検討・実装されてきた「自律分散型の企業間データ連携の仕組み」です。
そのねらいは3つあり
1つ目は、製品の詳細な設計情報(素材の性質や設計要件など)を製品ライフサイクル(製品の活用、運用・保守を行うユーザー段階)全体で共有すること。
2つ目は、ユーザー段階で発生するさまざまなデータを、多様なサプライヤーを含む産業機構全体で共有し、運用・保守サービス水準の向上を図ること。
3つ目は、製品はもちろん“製品サービスシステム”について、そのライフサイクル全体でのトレーサビリティを確保すること。
とのことです。
●「Catena-X」は自動車産業でGAIA-Xを実現する具体的な取り組み
その中で、Catena-X(カテナ-エックス)は、GAIA-Xの一部として自動車産業でのプロジェクトで、ドイツの自動車業界が中心になって進められています。
このプロジェクトでは、川上のサプライヤーから川下のディーラやモビリティーサービスプロバイダー、さらにはリサイクル企業までを含めたバリューチェーン全体でGAIA-Xに準拠した標準化されたデータ交換を可能にし、自動車産業の「データ駆動型バリューチェーン」の構築と利用を目指しています。
ここまで、日本における「Society5.0」、EUにおける「インダストリー4.0」を例に挙げて説明しましたが、全世界的に「自律分散」という流れが進んでいると考えて間違いないでしょう。
今回は、「動き始めたデータインテグレーションの世界」として、日本と世界の「自律分散」の概念で動き始めた取り組みをご紹介しました。
次回以降は、日本でのより具体的な動きを見ていきましょう。
- 日本でも自律分散の考え方が
- 産業システムも自律分散に向かう
- 自律分散システムはWeb APIから
- Web APIを使いこなす
- 身近なところから自律分散を活用
- 個別システムがつながりデータインテグレーションが実現できる
- 世の中みんなつながれば「エコシステム経済圏」が構築される
- 活用事例 [1記事につき1想定事例]
- WebEDIの手作業から解放
- EDIが難しい中小企業とのデータ連携
- 画像データを工事事業者に提供
- クラウドサービスとの連携による業務の効率化
- 貨物追跡・生産者情報トレースの充実による物流精度の高度化
- 工場や生産現場での予防保守
- 計画(生産・販売)・実績・在庫情報公開による生産・販売精度の精緻化
- 各社の貿易システムと連動したグローバルSCM