『教えてヒロさん!』
~ 藤野裕司のEDI・データインテグレーション追っかけ塾 ~
産業システムも自律分散に向かう
投稿者:藤野裕司
<第3回>
1. データインテグレーション編
~データ連携・データ統合の現状と未来~
1-3.産業システムも自立分散に向かう
前回(第2回)では、「日本でも広まる自律分散の考え方」として、一般に言われる「Web3(Web3.0)・DAOの自律分散」を説明し、それをそのまま「産業システムの自律分散」に適用するのが難しい、という実情を解説しました。
今回は、その産業システムの自律分散はどのように実現すればよいかというお話を進めていきましょう。
● 産業システムの自律分散とは
社会的には、いろんな分野で自律分散という流れが見えてきています。
たとえば、ここ数年で大手総合スーパーの数が少しずつ減り、小型食品スーパー・コンビニ・ドラッグストア、ホームセンターやユニクロ・しまむらなどの小型スーパーや専門店が増えてきています。ビジネス環境においても、ホワイトカラーのテレワークが多くなり、都心への集中出社が緩和されてきています。
このような現象を見ても、世の中は自律分散の方向に進んでいるのが感じられるのではないでしょうか。
ITの世界ではどうでしょう。
コンピュータの利用も、従来は自社センターに集中していましたが、パブリッククラウド・プライベートクラウド・ハイブリッドクラウドの利用や、さまざまなアプリケーションサービスの利用など、クローズな自社環境のみならず、外部機能の活用が進んでいます。
これも分散化が進んでいる証拠です。
● ITにおける自律分散の課題
現場の感触としては、次のようなご要望を受けるケースが多いと感じています。
- 既存のシステムや社内のデータをもっと活用したい
- どんどん生まれてくる外部サービスを有効的に使いたい
- IoTのデータもあちこちのクラウドに散在しているので簡単につなぎ合わせて集約したい
このように、「活用したい」「有効に使いたい」「簡単に集約したい」などの要望が増えつつあるのは間違いないようです。
そうした要望から新しいシステムを作るとき、従来の考え方なら、必要な機能やさまざまなデータをネットからダウンロードで取り込む大きな開発が行われるのではないでしょうか。
しかし、ここで自律分散の考え方を取り入れるなら、すべてをゼロから作るのではなく、すでにある優れた機能や公開されたデータを有効に連携させ、より早くより低コストで作り上げることを目指すことができます。
独立した機能やデータを連携することにより、新しいシステムを柔軟に作り上げること、これが自律分散型処理ということです。
実際に、産業システムでも次のような課題解消のために自律分散が求められています。
- 顧客の要請で先方システムへのWEB入力を強いられ、対応コストがかかってしまう。
- 自社に特化した業務システムは、長年の積み重ねで相互につながっているのに、世の中に登場した経費精算やSFA、人事クラウドなどの外部サービスのデータは、手操作でアプロード/ダウンロードしなくてはならない。
このように、一般には「あたりまえ」と思われる仕組みも、現実としては人間系による制約や負担が増えつつあります。
オンプレミスは使いやすく作られているが、手間とコストは膨大。各種サービスは手操作が煩雑で使い勝手が悪く、あちこちに散在するIoTデータや有効なシステムには自在につなぎに行くことができません。
では、産業システムでいう自律分散は、どのように実現すればよいのでしょう。
●「スクラップアンドビルド」からの脱却
[図]産業システムでの自律分散処理とは
自律分散型の産業システムでは、新しく作る必要のあるシステムは、既存のシステムの機能を活用し、追加の機能も相互につなぎ、新旧を自在に連携し柔軟に利用しやすく組み立てる。
これまでの新システムは、古いシステムをすべて捨てて、より良いシステムに一新するスクラップアンドビルドがよしとされてきました。
しかし、そのためには膨大な時間と費用と計り知れないリスクが発生します。
一方、高機能なERPや業務クラウドサービスが多数登場しており、IoTで有効なデータもどんどん提供されるようになりました。
この流れの中で、大規模システムをスクラップアンドビルドというと、完成したころには陳腐化したものになってしまう可能性があるのです。
昨今のIT技術の進化は恐ろしいほど速く、市場のニーズはとてつもなく激しい勢いで移り変わります。
それに対応するため、システムを素早く更新し、新しい要望をすぐにでも満たすことが求められるようになりました。
そのためには、システムはいちから作るより、採用可能なものを柔軟に取り入れ、不要となったものは適宜取り払う。つまり、いいとこ取りをしてシンプルなシステムを目指すのが、この時代に相応しい方法となるのではないでしょうか。
これを実現する手段として、Web APIが今注目されています。
Web APIを産業システムでの活用する方法とその理由を考えてみましょう。
今回は、産業システムの視点で自律分散を考えてきました。
次回は、Web APIで産業システムを自律分散化する方法に切り込んでみます。