『教えてヒロさん!』
~ 藤野裕司のEDI・データインテグレーション追っかけ塾 ~
投稿者:藤野裕司
藤野裕司(ふじのひろし)がEDIやデータインテグレーションのトレンドをわかりやすく解説していきます
過去記事
<第2回>
1. データインテグレーション編
~データ連携・データ統合の現状と未来~
1-2.日本でも広まる自律分散の考え方
前回の「動き始めたデータインテグレーションの世界」では、世界や日本で動き始めたデータインテグレーションや自律分散の動向をお話ししました。
この自律分散については、日本でもいろいろ話題になっています。
ところが、その話題となる自律分散は、前回のお話と少し違った表現で語られています。
●日本で自律分散というとWeb3・DAO
話題となっている自律分散は、日本ではWeb3やDAOという名前で登場しています。
それはどんなものでしょうか。
産業システムではほとんど聞かない言葉です。
ネットで調べても、次のように専門用語が並ぶ解説が多く、わかりやすい説明は出てきません。
Web3(ウェブスリー):
ブロックチェーン技術を利用した分散型デジタルエコシステム
DAO(Decentralized Autonomous Organization / ダオ):
その特性を生かした自律分散型組織
もうすこしヒロの目線で説明してみましょう。
●Web3とは
現在のネット環境は、Web2.0 といわれています。
たとえば、 アマゾン・楽天・メルカリを利用しようと思えば、各自が別々に登録して利用することになります。
どれか一つに登録すると、各サービスの中で利用者はすべての機能につながり、自由に利用することができます。しかし、そこから他のサービスにまたがり利用することはできません。
Web3では、アマゾンと楽天とメルカリがひとつにつながったようなイメージとなり、どこかに所属するとシームレスにすべてのサービスやその中の機能を利用できるようになります。
これはあくまでイメージです。現実とは切り離してお考え下さい。
Web3では、アマゾンと楽天とメルカリがひとつにつながったような…
重要なのはデータのつながり!
●DAOとは
これは、組織運営の考え方になります。
従来はトップダウン型の組織構造が多く、一般の会社組織で考えると、最上部に社長が存在し、その下に複数本部がありそのトップには本部長、その下に複数の部がありそのトップには部長、その下に複数の課がありそのトップには課長が存在しその下に各メンバーがつながるわけです。
それが、DAOでは、各メンバーがその上長に管理されることなく独自の判断で活動することができ、課長・部長・本部長・社長も各メンバーと同じ立場で判断・活動し組織全体が自由かつ柔軟に意思決定を行うことができる運営となります。
過去には近い考え方で「ホロクラシー(ホロン型)組織」という概念もありました。
現在のDAOをお金の管理方法で考えてみましょう。
銀行など金融機関は、すべての顧客の資金をトータルで管理しています。
個人が資金移動の操作をする場合、すべてその銀行の管理下で行わなくてはなりません。
つまり、銀行がトータルの資金を管理し、すべての取引の履歴を把握、記録しているということです。
これに対して、DAOの場合は、個人が所有するタンス預金のイメージになります。
個人がタンス預金を管理する場合、自分で自分のタンスの中の金庫に入ったお金を出し入れします。個人のタンス預金は、すべて当事者が管理することになるのです。
ただ町全体でどのくらいあるかをまとめる必要があるので、念のために、いくら金庫にお金が入っているかを、町会長が管理している台帳に各自が自分で書き込みます。
トータルの資金管理を誰かがするわけではなく、台帳だけを町会長が管理するイメージになります。町会長は、特別な事情 がない限り、個人の台帳を読み書きすることはありません。
あくまで、台帳そのものを管理するのみ。これがDAOの考え方です。
ここで重要なのは、個別管理された自律分散データ(ここでは個人が管理するタンス預金)のつながりです。
この考え方は、産業システムでも重要な考え方となるわけです。
個人の金庫入りタンス預金は、全て当事者が管理。
いくら金庫に入っているかは、町会長が管理している台帳に、各自が自分で書き込む
●産業システムでも自律分散は求められている
産業システムでも、Web3・DAOのような自律分散が求められるようになりました。
世の中全体では、いろんな情報が発信され、各個人に様々な選択肢が用意されているように、産業システムでも求められる要件は広く深くなってきています。
いろんなサービスでいろんなデータが用意されるようになりました。これを産業システムは活用しようと動き出しています。
このとき、自律分散という考え方は非常に重要で、これからの産業システムに大きく影響を与えることになるでしょう。
では、産業システムでの自律分散を考えてみましょう。
まず、Web3とDAOの技術が、そのまま産業システムでも使えるのでしょうか。
現時点のWeb3とDAOには、産業システムから見た限界があります。ブロックチェーンそのものが従来型の産業システムと相容れないところがあるのです。
●Web3とDAOの限界
それは、Web3やDAOの概念があくまでも個人格を対象としているからです。
一方、産業システムは法人格が前提です。
そうしたとき、ブロックチェーンは現在稼働している産業システムに利用できるのでしょうか。
その相性を見てみましょう。
ブロックチェーンの目的:
小さなデータの非改ざんを証明
⇒業務が扱う大量データの取り扱いには適さない
チェーンの相互連携 :
現在不可能
⇒ブロックチェーン間をシームレスに連携できないと、産業システムでの利用は困難
このように、産業システムの前提に対して、ブロックチェーンは大きな壁を持っているのです。
「Web3・DAOの自律分散」と「産業システムの自律分散」
求めるところは同じでも、そこに至る道筋が違うように思われます。
当然ながら、産業システムでも、「小さなデータの非改ざんを証明」したり「チェーン間の相互連携を不要」としたりする場面はあり得るはずです。そういった分野での活用は期待してよいと思います。
しかし、現在稼働している大方の産業システムの自律分散には適用が難しいのです。
では、産業システムで自律分散が求められるのはどのような場面でしょうか。
[現状]
- いろいろな機能がそろったクラウドサービスやERP、各々は使いやすいが、異なる機能をつないだ時には、自分の思う使いやすさにはならない。
- オンプレミスは、自分にとっては非常に使いやすいが、手間とコストが発生する。
- クラウドには、価値あるデータが数多く存在しているが、自在に利用できるわけではない。
- 個別企業のクローズな世界に、有益なデータが埋もれてしまっている。
[求める姿]
- 世の中には貴重なデータや得難い機能が数多く存在している。
- みんなのいいとこ取りしたい!
- それらを活用して、簡単でシンプルなシステムを速やかに構築したい。
求める姿を実現する方法、それが産業システムの自律分散ではないでしょうか。
今回は、日本で取り上げられつつある自律分散を、産業システムの視点で解説してみました。
次回は、産業システムにおける自律分散を、より具体的な形で整理してみましょう。
- 産業システムも自律分散に向かう
- 自律分散システムはWeb APIから
- Web APIを使いこなす
- 身近なところから自律分散を活用
- 個別システムがつながりデータインテグレーションが実現できる
- 世の中みんなつながれば「エコシステム経済圏」が構築される
- 活用事例 [1記事につき1想定事例]
- WebEDIの手作業から解放
- EDIが難しい中小企業とのデータ連携
- 画像データを工事事業者に提供
- クラウドサービスとの連携による業務の効率化
- 貨物追跡・生産者情報トレースの充実による物流精度の高度化
- 工場や生産現場での予防保守
- 計画(生産・販売)・実績・在庫情報公開による生産・販売精度の精緻化
- 各社の貿易システムと連動したグローバルSCM